「愛の無い映画」

ベッドシーンや恋愛描写が少ない映画を探し求めるブログ

【漫画】違国日記

【漫画】違国日記(全11巻)

安心度:★★★★
恋愛シーン:男女で体の関係を持っている組み合わせがいるが恋愛ではなさそう キスシーン:ちょっとあり セックスシーン:匂わす程度に少しあり
女性の扱い:安心して読める、男女の差なし、自立した女性がメインキャラクターにいる

作者:ヤマシタトモコ
初版発行〜完結:2017年11月8日〜2023年8月8日
掲載雑誌:フィール・ヤング

 

あらすじ
人見知りな少女小説作家・高代槙生は、両親を交通事故でなくした高校生になる姪・田汲朝を引き取ることになった。槙生とは逆に人見知りをしない朝と二人、それぞれの孤独を抱えながら手探りで同居を始めるが……。

 

感想
一言で言ってしまえば「変人」になってしまうのかもしれない、繊細で苛烈で我の強い、孤独を愛する槙生と、少し鈍くて寂しがり屋で、でも人からの好意を素直に受け取れる朝の、凸凹コンビの同居ストーリーでした。お互い交わらないようでいて、でも不器用なりに寄り添って生きていく様子は、陳腐だけど愛ってことなんだよなあと思います。作品では、槙生と朝の間の愛だけではなく、家族愛、恋愛、友人との愛、自己愛その他色々についても描かれていたし、「愛されないこと」にも言及されていたのが印象的です。

最初はぎこちなく感じた朝と槙生の関係ですが、思春期の、大人になりかけているけどまだまだ自由な子どもと、大人になってもうしばらく経ち責任感のある大人の二人の距離感として、かなり理想的だなと思いました。
描かれていたのは朝と槙生の関係性だけではなくて、朝には朝の、槙生には槙生の人間関係があるのですが、性格の違いや年相応さが窺えてよかったです。
わたしが好きだったのは、朝とその友だちの笑いのツボがすごくリアルに若い人っぽかったところです。箸が転げても笑う世代だった昔の自分を思い出しました。違国日記(もしくはヤマシタトモコ先生の作品)ではちょっとした笑い声も書き込まれているのですが、その笑いのタイミングが学生である朝と大人の槙生ではぜんぜん違うところとかがしみじみとよかったです。

違国日記は、ストーリーを大きく捉えても良いところがたくさんあるのですが、なんかそういう、細かい良いポイントも沢山あって、語り尽くせないような作品だなと思います。
また、一度目では理解できなかったところが何度か読むと分かったりしたので、繰り返し読む楽しみがある作品でもあると思います。

さらりと性的マイノリティや、今少数派とされるひとたちがでてきたりするところもめっちゃいい。

孤独だな、居場所がないな、人と違うのかも、もしくは凡庸すぎるのかもと悩む人達の居場所になるような作品だと思います。

おすすめ!

 

 

 

ネタバレあり感想

 

 

 

 

「変わり者」槙生が特別変わっているのではなくて、みんな普通に見えていても「普通」じゃない、その人だけの孤独を抱えているんだな、と思うような、わたしたちがこっそり抱く孤独に寄り添ってくれる作品だなと思います。
それから愛の物語でもありました。とはいえ、よくある恋愛や家族愛というよりは、「人と人との結びつきの物語」という方がいいかも。槙生と朝の関係は「愛している」という言葉だけでは足りないと描かれていたし、傍から見たら恋人と言われそうな槙生と笠町くんの関係も、恋愛ではないです。名前がつけられない・名前がつけられないほど相手を大切に思っているけれど、その関係性が重要で愛おしいんだという気持ちが、様々な人たちの間で、様々な形で描かれていました。

それから、「なりたいものになる」ということの眩しさ、難しさ、そのための戦いについても描かれていて、特にわたしはその戦いを諦めないでいてほしい、と言った槙生にすごく感動しました。
昔、「わたしはなりたいものになれるし行きたいところに行ける」と考えていたのに、今ではすっかりそんな事も忘れてしまっていたな、ということに気づかせてくれたので。
いくつになっても、なりたいものになる戦いをしてもいいんだ、人を愛して自分を愛して、なりたいものを愛していいんだなあと思える物語でした。

あとは、上でもかいたけど、性的マイノリティや少数派の人たちなど、いるのにいないことにされている人たちが、主役でなくてもさらっと登場することがすごく嬉しかったです。ミックスルーツのクラスメイトや、日傘をさす男性とか、ノンバイナリーの人とか。

おすすめで〜す!!